夏至1 通常業務1

銀行回り 新米社会人

経費の支払処理

自分で調べる癖をつける

ひとたび、簿記の基本構造が理解できると、後は早かった。ホテル事業や飲食事業の経費支払伝票の起票担当者となった。

当時は、法律しか学んでこなかったから、本当に、経済や経営など、諸事に疎かった。領収書と納品書の違いも分からなかったほどだ。

飲食事業の場合、青果店や雑貨屋などからの納品書だけが頼りだ。請求書を目にすることは稀だった。

20日締めと月末締め、それぞれの締め日は業者ごとに定まっていた。当時は、支払先マスターや、ベンダーリストなど、今では当たり前のマスター管理、リスト管理など行われていなかった。

全ては、OJTによる前任者からの引継ぎと、過去の台帳だけが参照可能な情報だった。私は死に物狂いで、トレーナーの竹田先輩の説明を一言一句頭に叩き入れようと努力した。

もちろん、一度で覚えきれないことは多々あった。

しかし、もはや1か月前の自分ではない。竹田先輩を捕まえて、一から教えを乞うのではなく、まず過去の台帳や仕訳帳を調べる癖がついた。

自分で調べたうえで、どうしても竹田先輩に尋ねなくては前に進まない場合だけ、質問するようにした。

次第に、竹田先輩も、露骨に、私の質問を邪険にすることはなくなり、適切なアドバイスをくれるようになった。

信用経済の実態を知る

最初、私には得心がいかなかった。20日や月末の締めとは何なんだろう。締めと支払はどう違うのだろう。お金を支払ってもいないのに、どうして先に野菜や果物が納品されてくるんだろう?

いまとなっては、からくりは簡単に理解することができる。これが「信用経済」の典型例なのだ。

飲食店という物理的に動くことのできない場所に、屋号をきちんと世の中に示して、お客様商売を始めている。もし、食料品の支払を踏み倒せば、必ず督促の連絡が来ることになる。

そこに、お店を開き、あるいは、最初の取引を始める前に、本社オフィス(私が当時出社していた先)の場所もオープンになっている。

だから、「つけ払い」で先に商品を仕入れて、後から納品書(時には請求書も混じっていた)を取引先ごとに集計して、月払いで代金を支払っていたのだ。

この仕組みは、クレジットカードと同じ類のものだ。消費者はクレジットカードの提示によって買い物ができる。

クレジットカード会社(信販会社含む)も、消費者対する信用度を評価(与信)し、信用に足る人にだけクレジットカードを発行する。

そして、一定の日付までの買い物代金をまとめて、月次で一括請求する。大抵の場合は、提携先の銀行預金口座からその額が引き落とされることになる。

消費者が必ず提携先の銀行口座に引き落とされるだけの金額をあらかじめ用意しておく信用に対して、クレジットカード会社(信販会社含む)は先に購入代金を手数料と共に立て替えておく。

こうすることで、今手元に現金がないけれど、今商品を買いたい。でも、約束する日までには支払うべき代金を用意することができる人でも、商品を買いたい今、その買い物ができるようになる。

信用経済が機能すると、信用経済が無い場合に比べて、確実に経済活動が活発になって、世の中のお金が回りやすくなることにその時に気が付いた。なるほど、と感心した記憶がある。

もっとも、その当時、私自身はクレジットカードを一枚も所持していなかったのだが。

締め日と支払日の違い

その会社は複数業態の飲食チェーンを運営していた。だから、生鮮食料品は毎日のように納品があった。それを、およそ1か月分、貯めておくわけである。

例えば、20日締めで約束している取引先であれば、前月の21日から当月の20日までになされた納品を集計して一枚の支払伝票(人名勘定)にまとめた。

最初は要領を得なかったが、この例の場合、当月の20日には、仕入と買掛金の仕訳が立つだけで、実際のお金の支払はまだ先のことだった。

支払日は、締め日から2週間後だった。20日締めの取引先には、翌月の5日頃、月末日締めの取引先には、翌月の15日頃、会社名義の銀行口座から取引先の銀行口座に振り込んだ。

当時はまだインターネットバンキングやFB(ファームバンキング)が今ほど当たり前にはなっていなかった。毎朝の銀行周りは私の仕事のひとつだった。

小口現金の引き出しに始まり、家賃収入などの入金口座から、取引先への経費支払口座への送金、そして取引先への支払振込など、通帳と各種用紙をカバンに入れ、各銀行を回ったものだ。

今思えば、企業経営にとって大切な要素のひとつ、「資金繰り」を肌感覚で体に染み込ませることができる貴重な体験をさせてもらっていたのだ。

必要以上のものを払わない

最近は、銀行決済サービスについても、フィンテックの登場により、コスト競争とサービス品質競争が以前にも増して激しくなっている。

だが、当時は、大抵はどこの金融機関でも、振込手数料の料金体系に変わりはなかった。

私は、そんなものだと思っていたが、会社の上の方は、少しでも支払い負担を減らすために、振込手数料は、原則、相手側(納入業者)負担としていた。

ただし、これはあくまで会社の基本スタンスなのであって、取引先によっては、振込手数料を折半の所もあったり、こちらが全額負担している場合もあった。

いわゆるケースバイケースだったのだが、基本スタンスは相手側負担だった。

民法484条「弁済をすべき場所について別段の意思表示がないときは、特定物の引渡しは債権発生の時にその物が存在した場所において、その他の弁済は債権者の現在の住所において、それぞれしなければならない。」

民法485条「弁済の費用について別段の意思表示がないときは、その費用は、債務者の負担とする。ただし、債権者が住所の移転その他の行為によって弁済の費用を増加させたときは、その増加額は、債権者の負担とする。」

特に意思表示がなされていない場合(合意が無い場合)に限り振込手数料は債務者負担が原則。これが法律の定めたルールだ。

請求金額の振込手数料はどっち負担? | スモビバ!
法人だけでなく、個人事業主やフリーランスの人も、発行する請求書。この請求書について迷うのが「振込手数料について記載する必要があるのかどうか?」ということ。はたして振込手数料を負担するのは、受注した側か、発注した側か、どちらなのでしょうか。
よくある質問コーナー(下請法):公正取引委員会

基本的な考え方としては、実務上は、商習慣や事前の双方の取り決めを優先することになっている。

振込側(支払側)に負担してもらいたい場合は、事前契約書にその旨明記するか、請求書等に但し書きを記載しておくのが不要な争いを防ぐ知恵となる。

(注:実際の交渉や契約書・請求書の作成については、顧問弁護士・税理士にきちんと相談したうえで対応してください)

塵も積もれば山となる。

下請法適用の場合は、双方の合意形成になお一層の注意が必要であるが、経費支払を1円でも少なくする経営努力の一端を垣間見ることができたのが私にとって大きな収穫だった。

コメント

タイトルとURLをコピーしました