立夏1 初めての就職面接3

ドア 新米社会人

徹夜でQ&Aを脳内シミュレーション

拙い自問自答

別に好きで徹夜したわけではない。履歴書を送った5件の内、メール返信があったのは3件。

その最初の面接日の前夜、いつもより早めにベットにもぐりこんだわけだが、目がらんらんと冴えてしまい、寝付けなかったにすぎない。

以前から、なにかと思い詰めるたちで、考えすぎて眠れなくなることはよくあった。

ここ一番という本番に弱いことはいつものことだ。想定問答は、何回、頭の中を駆け巡っただろう。

やがて、空が白み始め、スズメがちゅんちゅんと泣き始めた頃、ようやく、このまま徹夜で面接に挑もう、と覚悟を決めた。

きちんと自己管理ができていたら、やらないですむはずの、余計な覚悟だ。

いつもの通り、覚悟を決めた自分に酔っていた。自己陶酔も甚だしいとはこのことだ。

ナチュラルハイで面接に挑む

「当社を志望した理由をお聞かせ願えますか?」

「大学をご卒業されてから、時間が空いていますが、何をされていたんですか?」

「お持ちの不動産系の資格についてお話をお聞かせください」

「自分の長所と短所をそれぞれお聞かせください」

今でも思い出せる質問はこれくらいだ。

相手が5秒で繰り出す質問ひとつひとつに対して、こちらは4~5分かけて、くどくどと説明を重ねる。そりゃ、印象も悪いはずだ。

回答は端的でかつ所要時間は短ければ短いほど、シャープな印象を与え、余計な失点をもらわない。

ビジネストークとしては、基本中の基本だ。そういう訓練も、知識も身に付けてはいなかった。

気持ちを込めれば込めるほど、空回りした。空回りすればしたで、なお一層、説明がくどくなる。絵に描いたようなデフレスパイラルだった。

業界分析はやったのか?

そもそも、応募先の企業の業種・業態すら把握していなかった。いや、最初から関心がなかった。

正社員として雇ってもらえればいい、という一存だけがあった。

関西の大学卒業後、新卒入社の道を自らの意志で断ったため、最後の拠り所が不動産関係のかんたんな資格を保有していることだけだった。

一事が万事、こんな風なら、タフなビジネスシーンでは到底やっていけないだろう。

自分の関心事より、まず相手を知り、相手を立て、相手の欲するものを先に提供するのがビジネスというものだ(と、今の私は考えているが、どうだろうか?)。

経理職の募集というだけで、片っ端からハローワークで調べて、中途半端な経歴でもOKそうなところに履歴書を送っただけだったのだ。

大学では法律を修めただけだ。むしろ、計算は大の苦手だ。特段の理由はなく、営業職も技術職もできないという思い込みだけによる消極的選択がその理由だ。

この応募先の企業は、証券金融を生業としていた。

いわゆる証券担保ローンを行う零細金融会社で、社長である40代の男性と、唯一の社員である30代の女性の二人だけで経営しているところだった。

そういう企業が、社会人としての経歴もなく、不動産関係のかんたんな資格を持っているだけで、そもそも相手にしてくれるはずがない。

自分を客観視できていない証拠だ。

結果は火を見るより明らか

社会人は、大抵は慎重で、すぐに事の是非を表にしない。

そんな常識も知らず、やがて、約束の面接時間が迫り、採用可否の連絡の仕方を事務的に説明する、そういうやりとりで面接が切り上げられた。

「ありがとうございました。宜しくお願いします。」

自分としては、結構、いい態度で最後に挨拶ができたとの自己満足で、面接部屋を後にした。ドアを閉めて、廊下に出た瞬間、背面から、

「くどいなぁ~。」

という女性の一言が耳に入った。

すぐ後、男性の笑い声が聞こえてきた。恥辱を一身に背負い、やるせない気持ちとどこにぶつけようのない怒りに溢れた身体をどうやって処しようか。

その後、その企業から合否に関する連絡が入ることはなかった。

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