立夏1 初出勤2

引継ぎ 新米社会人

生まれて初めての仕事

はじめての職場の先輩

私は、すべての人間関係が苦手だ。なぜだか、相手の気持ちを察するということができないのだそうだ。”思いやり”という言葉は知っているのだが、言葉を知っているということとそれを実践できることは大いに異なる。

(後年、ずっと経ってから、自分が、自閉症スペクトラム症、アスペルガー症候群であることを知った。まだ、当時の自分にはそうした知識も自覚もなかった)

ASD(自閉症スペクトラム症、アスペルガー症候群)について
自閉症は多くの遺伝的な要因が複雑に関与して起こる生まれつきの脳機能障害で、症状が軽い人たちまで含めると約100人に1人いると言われています。自閉症の人々の状態像は非常に多様であり、信頼できる専門家のアドバイスをもとに状態を正しく理解し、個々のニーズに合った適切な療育・教育的支援につなげていく必要があります。

特に、年齢の上下にかかわる、先輩後輩関係は特にいけない。生まれながらにして、自分の能力や特性に関わらず、先輩には絶対服従なのである。

私は、山深い、いわゆる山村で生まれ育ち、小中高とずっと地元の公立校だったため、12年間、この超えられない秩序の中で逼塞ひっそくしていた。

大学新卒でサラリーマンになる道を避けようとしたのも、この生来の性向がその根底の理由だった。

しかし、現実は甘くなかった。

初めての職場での先輩は、なんと、年下だったのだ。

回り道をした自業自得の結果

当たり前といえば、当たり前だった。

自ら進んで、回り道をしたのだから、真っ当に人生を歩んでいる人に比べて、何もかも遅い到達になるのは理屈通りで、何の間違いもない事実だ。

私は、好きで、一浪を選び、好きで、新卒入社の機会を棒に振ったのだ。当たり前に普通にやっている同年代の人に比べて、この時点で3年は経験値が不足しているのだ。

しかし、当時の私は、その事実に驚愕した。理不尽とさえ感じた。

その先輩は、竹田さんといった。23歳で、2つ年下だった。彼は、高校卒業後、ビジネス専門学校で2年を過ごし、二十歳で衣料販売の全国チェーン店に就職したのだそうだ。

彼は、専門学校で販売・マーケティング系の資格を持っていた。しかし、年下で学歴も下(私は4大卒であるという自負があった)。なぜ、こういう人の風下で仕事をせねばならないのか、自分の運命を恨んだ。

竹田先輩にも、恨みや僻みを感じたのは事実だ。まったく、竹田先輩にしてみたら、身の覚えのない恨みである。彼は100%悪くない。

竹田先輩

竹田先輩は、世間一般ではいい人の部類に入るのだろう。2歳も年上の社内人経験が皆無の私に、一から仕事だけではなく、社会人としての身の処し方まで丁寧に指導してくれた。

あけすけに、自分も前職を1年で退社し、この会社に入社した経緯を話してくれた。そして、彼も前任者から仕事を手ずから教わったので、自分が教わった通りに教えるから心配いらないと太鼓判を押してくれた。

たった1年でも先に入社したら、それだけで立派な先輩だ。しかも、相手は2年の社会人経験も持っているのだ。

私は、初心に帰るつもりで、この竹田さんの指導を受けて、一人前になろうと決意を新たにした。

同僚に関する情報

竹田先輩は、おなじく経理部で働く同僚についての説明をしてくれた。部のトップは、私を面接してくれた元木部長、その下に、絵に描いたようなお局様である山崎さん。

山崎さんの肩書が特にあるわけではないが、年齢と経験の点から絶対に反抗してはいけない存在だと、口を酸っぱくなるくらいくぎを刺された。

というより、見た感じ通り、性格はキツメで陰湿。絶対に敵に回してはいけない、と教わった。

彼女は、全部門の仕訳と銀行預金の残高の最終チェックの責任者である。

もう一人の同僚、もとい、先輩は横井さん。こちらも、転職組で、私の一つ年下だった。彼女の前職は食品関係の会社で、そこでも経理職だったそうだ。

彼女も、約1年前に転職してきたのだそうだ。彼女は、ホテル事業と定食チェーン(といっても、まだ店舗は2軒だけだった)の経理担当者だった。

初めての引継ぎ

「引継ぎ」という言葉をこの時、初めて知った。

これまで、社会人経験もなく、経理実務なるものをやったこともない。簿記の何たるかも全く知らない。あるとすれば、4大卒であるというプライドと、不動産関係の資格だけだった。

簿記をマスターしないと、仕訳を切ることができない、ということで、最初は現金出納を担当することになった。

これは、営業のために電車・バスを使って移動した営業マンに、その日のうちに、交通費の精算をする係だった。

簿記すら知らない私が最初にできる経理作業は、営業マンから差し出された旅費精算書をチェックし、そこに記載してある従業員立替金を、会社の金庫から出して、営業マンに現金を渡すことだった。

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