立夏1 初出勤1

ルーキー 新米社会人

初心に帰って

神様への自分勝手な感謝

不動産関連のカンタンな資格を持っていたらこそ、不動産関連の企業に就職することができた。

神様はどこかで見てくれているのだろう、と勝手に信じ込んでいた。これは運命ってやつだ。

偶然、難関試験に向けての資格勉強(何度も言う様だが、必ずしも熱心に勉強したわけではなかったが)の最中に、実力測定のために、このカンタンな不動産関連の資格を取った。

神様のお導きで、この会社への就職をスムーズにお運び頂いたのだ。これまで、忸怩たる思いで、苦しい資格勉強地獄に嵌っていたが、神様が引き上げてくださったのだ。

我田引水も甚だしい、とはこのことである。身の程もわきまえずに、勝手に苦しい道を選び、スタックして身動きができなくなっただけのことだった。

たまたま、目の前の現実から逃避し、目先に示された、救いの手にすがって、資格勉強地獄から逃れたにすぎないのだ。

大事なことは、その手を差し伸べたのが、一体何者なのだったのかだ。

怪しいルーキー誕生

採用面接をした日の翌週の月曜日が初出勤日だった。気持ちを引き締め、定刻を気にしながら月曜の朝から電車に乗るのは何年振りだろうか?

通勤は、バスと電車を乗り継いで、片道50分程度だった。この程度の距離と時間の所に通うことは、当時の住宅事情からすれば、ラッキーな方であることは後から知った。

私は、遅刻だけはすまい、と早めに家を出ることにした。オフィスには、始業時間の30分も速い8:30に到着した。入社面接から数えて2回目の訪問だ。

「おはようございまーす!」

カチコチに固まって緊張し、顔を引きつらせたまま、始業30分前に額に汗を浮かべながら姿を現した新人に、既に出社していた古参社員は、いぶかしげな目線を送るだけだった。

はじめての朝礼

9:00始業の音楽がオフィスに流れた。

「今日からここで働くことになった七転君だ。」

と、元木経理部長が私を社長席の前にある比較的スペースが空いているところに、2重の人垣ができているところで、私を同僚に紹介してくれた。

もう、気分は物語の主人公だ。

生まれて初めて、「朝礼」というものに遭遇した。これがドラマや映画で見てきた本物の朝礼なのか。

憧れの舞台に立てて、自分で自分のことを晴ればしく思った。私もこれで一人前に社会人になったんだ。もうニートじゃない。

「初めまして。七転です。私は、〇〇大学卒業後、○○専門学校に行っていました。大学では、、、を専攻し、専門学校では、○○という不動産系の資格を取りました。長所は、、、。短所は、、、。右も左も分かりませんが、よろしくご指導お願いします。」

まるで、講談師か落語家のように、与えられた(本当は与えられてもいないのだが)時間枠いっぱいを使って、とうとうと語り始め、熱心な自己アピールをした。

そもそも、朝礼自体が10分で行われる。大切な業務連絡や昨日の業務報告があったに違いない(なぜなら、翌日の朝礼はそうだったのだから)。

この日は、私のジコチューな自分語りで貴重な朝礼の時間は終わりを告げた。

はじめての同僚

気まずい空気が流れた朝礼が終わった。私は、苦笑いを浮かべる元木経理部長に促されるまま、経理部員が集まるオフィスの最奥に移動した。

そこには、初めての同僚となる、30代のキツネ目の神経質そうな女性、20台と思われる若い男女、そして元木経理部長が私の前に立っていた。

「七転君は、もう知っているかと思うが、社会人未経験だ。分からないことだらけだと思うから、何でも尋ねられたら教えてやってくれ。」

経理部長が同僚に紹介してくれた。私はそれだけで歓喜し、

「七転です。新卒ではありませんが、社会人は初めての経験です。分からないことだらけですが、初心に帰って頑張りたいと思います。宜しくお願いします。」

とまあ、これまた、ピントの外れた意気込みを口にした。

同僚たちは、あきれてものが言えなかったのだろう。しかし、当時の私の目には、自分のセリフが同僚の耳に届き、これを快く了解してもらったという風に映った。

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